研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2011年9月19日月曜日

やってはいけないバッテリーメンテナンス

バッテリーの液レベルは、見ないふりするのが正しい

クルマやバイクに搭載される鉛バッテリーは、充電と放電のたびにガス(水素と酸素)が発生して、少しずつ電解液(濃液硫酸を蒸留水で希釈したもので比重が1.261.28)中の蒸留水も蒸発する。数ヶ月あるいは数年使用すると、バッテリー液のレベルが低下することで、蒸発していることを確認できるため、バッテリーのメンテナンスは、バッテリー液レベルの点検、ということを推し進めてきたが、実はそれほど簡単な話ではない。

バッテリーの様子を正しく見ていないと、確かにエンジン始動で問題が出たりする。昨日まで元気にセルが回っていたのに、今日はなんだかおかしい、と言う経験は、長くクルマを乗っていると、1度や2度あったと思う。その原因がメンテナンスに関する場合であったり、バッテリーの寿命であったりするから厄介である。

メンテナンスと言っても、それほどややこしいものはない。エンジンオイルのように、液の交換などと言う作業はないからだ。せいぜいターミナルの締め付け具合や、接続状態、バッテリー固定ボルトの緩み(緩んでいても、性能には関係ない。ただし締め付けボルトがなくなると、落下してショートする)ぐらいなもの。これで終わり。
 
何か忘れてはいないか?と言う問いかけをする方もいるだろうが、あえてそれを忘れよう。それとは、バッテリーの液レベルのことである。
 
昔は、バッテリーのメンテナンスで忘れてはいけない「筆頭項目」であったように思うが、それは大きな間違いだった。
 
バッテリーの液レベルが意味するものは何か、よく考えてみると、液レベルや量が大切なのではなく、その内容であることに気が付く。内容とは、電解液(蒸留水と濃硫酸の混合液)の硫酸分比率である。バッテリー液中の硫酸分比率は、つまり比重で判断できる。
 
大切なのはバッテリー液の比重であって、液レベルや量ではないのだ。ついこの間までは液レベルを最優先し、液補充により何が起きるのかが無視されていた。で、比重のことは考えずに、バッテリーの液レベルが低下していたら、補充液(蒸留水など)をアッパーレベルまで注入するよう指導されていた。
 
しかし、それがそもそも間違い。何故バッテリーメーカーは、未だにバッテリー液レベルについて、管理するよう指導しているのかわからない。それでいて、液補充が出来ないバッテリー(完全シールドバッテリー)の販売や、液レベルがろくに見えないようなケースの採用をやって、何とか問題を取り繕っているようにしか見えない。
 
バッテリー液のレベルは、使用する過程で少しずつ減少する。しかし、全ての電層で同じ量が減少するわけではない。バッテリー製造過程でのばらつきで、各電層間で発生電力の違いが出る。バッテリーを取り外して、充電してみるとわかるが、各電層で泡の出方が違うはず。これがバッテリー液の減少に結びついており、泡の出る電層ほど液レベルの低下は早い。
 
さて問題は、ここでバッテリーの液比重(つまり硫酸分)がどうなっているかである。これまでの経験からすると、たいてい泡のよく出ている電層は、比重が低い。つまり硫酸分が極板から排出されてこない。極板が劣化し始めている証拠である。ただし、ひとつの電層で考えて、その部分に使われる極板の全ての部分で劣化しているわけではなく、部分的である。(劣化はサルフェーションと呼ばれる酸化した状態)

このサルフェーションの中は、硫酸分が取り込まれた状態で、充電しても硫酸分を放出しないため、その電層の液比重は下がったままとなる。さらに、充電時には、容量が少ない分だけ集中して電解液は反応し、液レベルは低下する方向となる。
 
しかし、劣化し始めている電層でも正しい比重(1.261.28の硫酸分)を欲しがっている。それは、まだ正常に働ける部分があるからで、比重を正常にしてやることが必要になる。でも、バッテリーのメンテナンスでは、液レベルの管理がうるさく言われ、ついつい液レベルが低下している電層へ、補充液(蒸留水など)を入れてレベル合わせをしてしまう。
 
しっかりと液レベルが合わせられた結果、何がどうなったかというと、電解液が薄められ、それまででも低下していた比重はさらに低下して、硫酸分は下がり、充放電出来ない領域まで追い込む結果を作り出してしまう。

液レベルを無視して、そのまま使い続ければ、まだ数ヶ月は十分使用できたはずだが・・・
 
バッテリー液で大切なのは、比重、つまり硫酸分であるので、どうしても液レベルを調整したいのなら、全ての電層で比重を見ながら、電解液を補充するのか、蒸留水を補充するのか見極める必要がある。それもかなり大変で、生半可な知識では出来ない。
 
であるから、バッテリーの液レベルについては、ただ単に見るだけにとどめるべき。異常にバッテリーの液レベルが低下し、極板が露出しかかっているような電層を見つけたら、他の電層が正常でも、バッテリーの寿命と考え、できるだけ早いうちに交換するべき。

間違っても、補充液(蒸留水など)を入れて、液レベルを合わせないこと。これをやると、たいてい1カ月以内にバッテリーは使い物にならなくなる。また、場合によっては数日でセルが回らなくなる。

バッテリーの液レベルを見ても、そのまま無視していれば、必要な性能を保った状態で、しっかりと使い切ることが出来る。これを肝に銘じておきたい。


バッテリーの取り付け状態は、交換後数ヶ月経ってからチェックする。ある程度落ち着いてから見たほうが判断しやすい。ブラケットが動くようなら、ふたつある締め付けナットをそれぞれ半回転ぐらい締めこむ

ターミナルの締め付け状態も確認。緩んでなければ問題なし。今のバッテリーはこの部分に酸化物(緑青・ロクショウ)が湧き出ることはないはず

ターミナルの締め付けが弱かったら、一度完全に緩めておいて、出来るだけ下のほうにバンドを押し込み、その後にしっかりと締める

バッテリー液のレベルは・・・見えない。何のためにあるのだろうか液レベルの表示???

バッテリーを取り外して、前後に傾けるなどすると、液レベルが動くので、何となくそれらしいことが分かる。一番左の電層は他の場所に比べて5mmほど低下していた。それにしても、全ての電層で液レベルは最低ラインに近い

フィラープラグを外して内部を覗いてみると、まだ電極が見えるまで液レベルは低下していない。これまでであると「ヤバイ、蒸留水を補充して、液レベルを上げなければ」となったのだが、これが大きな間違い。大切なのは、液レベルではなく、バッテリー液の硫酸分、つまり比重だからだ

バッテリーが元気かどうか(まだ使えるかどうか)、エンジン停止後24時間以上経ってからの電圧を計測すると12.67Vであるから、いきなり始動不良とはならない状態

では肝心の比重を測定する。一番液量が残っていると思われる電層から

この部分は1.28~9で、少し比重が高いが、さしたる問題はない

一番液量が低い電層では、どのようなことになっているのだろうか

この電層は1.27~8という状態。バッテリーとして必要な比重を保っているので、使用する上での問題はない。やはり液レベルが低い電層は比重が低い。
でも、どの電層も液レベルは最低。ここに蒸留水を入れれば、液レベルは上がるけれど、硫酸は希釈され一番重要な比重は下がる。だから、液補充はやるべきではないのだ

バッテリーを交換したら、ラジオなどのチューニングばかりではなく(やらなくても事故にはならない)、パワーウインドウのオートでは、挟みこみ防止機能を働かせるための初期設定をやっておくこと。完全に開放した状態から、少しスイッチを引き閉まりきってから、2~3秒そのまま保持する。これで初期設定は完了。
なお、ホンダ車のように、初期設定(挟みこみ防止)を行わない場合には、オート作動のしないクルマもある(開発者に敬礼)









2011年8月30日火曜日

デミオ・スカイアクティブのエンジンはミラーサイクルを充実させたものだ

ハイブリッドの燃費にも迫るという、デミオ・スカイアクティブだが、プレスインフォーメーションには、肝心の表現が抜けている。それは、圧縮比を上げることの目標が、ミラーサイクル(アトキンソンサイクル、高膨張比エンジンなど呼び方は様々)状態での走行性を上げること。そのために出た結論が、見かけ上の圧縮比を出来るだけ高くしておくことが重要で、14という数字になった。
これが新開発された、デミオ・スカイアクティブ・エンジン。圧縮比14という数字だけが一人歩きしているが、実は燃焼の膨張比を大きく取ることを目的にしたミラーサイクルエンジンで、ミラーサイクル状態でも十分なトルクが得られるよう、見かけ上の圧縮比を大きく取り、エンジン負荷によって一番効率の良い燃焼を取り出す作戦だ

見かけ上の圧縮比(気筒容積+上死点での燃焼室容積:上死点での燃焼室容積)をこれまでのエンジンより高めておき,ノック等異常燃焼が問題となる低速域では吸気バルブの閉時期を遅らせて実圧縮比を低下させるもの。デミオ・スカイアクティブの場合、低中速域はオットーサイクル・エンジンの圧縮比で高膨張と言った方が、ある意味正しいかもしれない。

もちろんこれを達成し、更に燃費を効率よく向上させようとするには、なみなみならぬ技術を詰め込んでいる。例えば、圧縮比を上げるには、ピストンの頂面を限りなく飛び出させ、バルブとの接触を回避するリセスを切り込む、という手段になるが(ディーゼル燃焼とは違うので、フラットな頂面では出来ない)、このような設計とすると、熱効率が悪くなる。

それは、点火プラグとピストン頂面が近すぎる結果、燃焼で得られた熱が直接ピストンへ伝わり、膨張過程が妨げられること(つまり効率が悪い)。

そこで取り入れたものは、リーンバーンエンジンのようなキャビティを造ること。一般的には、キャビティを造ると、ピストン頂面の表面積が大きくなるので、熱を受ける面積ということだけ考えれば、燃費が悪くなるのだが、ピストン頂面のペントルーフ角度とバルブ挟み角から、燃焼室のあるべき形状を求め、シリンダーのボアが決まれば、キャビティを造ることへの抵抗もなくなる。
ピストン頂面にあるキャビティは、希薄燃焼エンジンで使うものとは違い、ここに混合気を溜める目的はない。点火直後の火炎がピストンへ当たらない距離をとるための、「逃げ穴なのだ」。もしこの穴がなかったら、点火後の火炎が膨張に入る前からピストンに当たり、せっかくの熱が無用にピストンから逃げてしまう。それを防ぐことが目的だ

確かに熱効率を判断するS/V比(燃焼室表面面積/燃焼室容積)はキャビティを造らない場合に比べ大きくなるが、それでも10%以下に抑えている。数字上のS/V比より重要なのは、点火した後の火炎が、直下に有るピストンへ当たらず、キャビティの中で広がりながら膨張させること。そして、ピストンから逃げる熱を大幅に少なくした結果、効率の高いエンジンが完成した。
カットエンジンで見るピストン。全部をクロームメッキしているので、光り輝いて判断がしにくいが、上死点にあるピストンと点火プラグの位置関係は、このキャビティがなかったら、異常とも思えるほど接近していただろう

ちなみに、圧縮比だけで見ると、プリウス1.8のエンジンは13有るが、これは完全にミラーサイクル・エンジンでオットーサイクル(普通燃焼)にはならない場合でのこと。

バルブタイミングを比較してみると面白いことが分かる。プリウスはミラーサイクルだけしか狙っていないということ。そのプリウスは吸気の開き角度がBTDC29度~ATDC12度、閉じ角度はABDC102度~61度。排気は固定で開きはBBDC31度、閉じはATDC3度。

対してデミオ・スカイアクティブは吸気の開き角度はBTDC36度~ATDC38度、閉じ角度はABDC110~36度。排気側も変化し、開き角度はBBDC9~52度、閉じ角度はATDC48~5度となる。

バルブタイミングの可変目的がエンジン性能は元より、燃費と排ガスを目的としたミラーサイクルの確立であるから、吸気カムシャフトの位相には電気モーターを採用して、レスポンスをアップしているのもスカイアクティブの特徴。

排気カムは油圧を使うが、カムの位相を変化させることで、内部EGRのコントロールを緻密に行い、排ガスばかりではなく、ノッキング防止に使われる。
見かけ上とは言うものの、圧縮比14が生半可な状態で達成できたわけではない。ミラーサイクル燃焼から目標となる性能を取り出すためには、シリンダーのボアを小さくし(71×82mm、1298cc)、バルブの挟み角などはもとより、吸気ポートの角度まで計算してもとめたタンブル(縦渦)の効果もある

積極的にミラーサイクルとオットーサイクルを使い分けながら、出来るだけミラーサイクル状態を保つために、ミラーサイクル専用のプリウスよりも圧縮比が高いエンジンを完成させ、ミラーサイクル状態でも、トルクと燃費のいい状態を持続させることに成功したのが、スカイアクティブ・エンジンである。

BTDC=上死点前 ATDC=上死点後 ABDC=下死点後 BBDC=下死点前

2011年8月26日金曜日

イグニッションコイルに外部抵抗器は何故必要か その2

今でこそ見たことのない人が多くなったポイント式の点火装置。そこに使われてきたイグニッションコイルは、そのままであると高回転に対応しないという状況が出ていた。それを解決したのが一次コイルの巻き数を減らし、減らした分の抵抗をプラス端子に直列配線すること。これがトータルの抵抗を同じに設定した外部抵抗器付きのイグニッションコイルということになる。

自己誘導作用と相互誘導作用というものを利用して、高電圧を発生させるのがイグニッションコイルの役目となることは前回説明した。

構造的なことから見ると、ポイントを閉じて一次コイルへ電流を流した後、ポイントを開いたときの一次コイルにおける自己誘導作用で発生する高電圧を、一次コイルと二次コイルの相互誘導作用で更に昇圧させることで、その瞬間、点火プラグにはスパークが起きる。
コイルに直流電流を流しても逆起電力の関係で、最大となるまでに僅かに時間がかかる。その時間はコイルの一次抵抗により変わる。抵抗が小さければ時間は短くなる

一次電流と二次電圧の関係をグラフで見ると、スイッチをOFFした状態からONしたときにも電流は変化し、磁界は発生するが、コイルのインダクタンス(誘導係数のこと。回路に電流を流したときの電磁誘導の大きさを表す定数で、誘導起電力と電流変化の比)のため電流は急激に流れないので、それによる磁界の変化も緩やかに立ち上がり、二次コイルに誘導される電圧は低く、点火プラグへスパークさせるような放電電圧に達しない。
スイッチ(ポイント)が開いた状態から閉じるときにも電流は変化するが、コイルの自己インダクタンスのため、電流は穏やかに流れるため磁界の変化も小さく、二次コイルに誘起される電圧は低く、放電する状態にはならない

大きな相互誘導起電力(点火プラグへの電圧)を得るには、一次コイルへ流れる電流を出来るだけ大きくし(限度がある、発熱が大きいと磁界が低下して起電力が低下する)、その電流の遮断を急激に行えば良いことになる。

ここに流す電流の大きさと、その遮断速度が磁束の変化の速さ、更に磁束変化量の大きさに直結する。つまり、点火エネルギーに影響を及ぼすことになる。

ところがエンジン回転が高くなると、ポイントの閉じている時間は短縮される。これは一次コイルに電流を流す時間が短くなり、その電流も低下してくる。

一次電流の低下は、つまり二次電圧に関係して、十分な昇圧とはならず失火が起きる。これを防ぐのが、外部抵抗器である。

フルトランジスター点火などでは、閉角度制御(ポイントでいうと閉じている時間を制御すること)なるシステムを組み込んで、ある回転以上となると一次コイルに流す電流の量を多くしているが、普通のポイント式ではそれが出来ない。そこで考え出されたのが、一次コイルの巻き数を減らし、減らしたことで起きる抵抗の低下を、外部に抵抗を取り付けて補うという方式。その抵抗はインダクタンスに関係なく、電圧とのつじつまを合わせることに作用する。

一般的な例で言うと、ポイント式点火装置で使われる普通のイグニッションコイルは、一次コイルの抵抗値が3Ω程(12V専用)だが、それを1.5Ωとした場合のコイルの巻き数は半分となり、そこに流す電流を妨げるインダクタンスは小さくなる。

言い換えると、イグニッションコイルに電流を流しても、直ぐにコイル全体へ行き渡るわけではなく、例えば3Ωのイグニッションコイルでは0.01秒掛かるが、それを1.5Ωとすると0.006秒に短縮する。これが重要なことで、高回転或いは多気筒エンジンでは、このように電流の立ち上がり(コイルへの満充電)を素早くしないと点火性能は発揮されない。

インダクタンスが小さくなるとコイルに流れる電流は直ぐにいっぱいとなり、点火性能を確保できるというわけだ。

テストベッドに使っているIGコイルへ流れる電流を計測すると、4.20アンペア

コイル本体の一次抵抗は1.7Ω。外付け抵抗器で3Ω近くになるよう調節する。そうしないとコイルに流れる電流が多くなり、発熱による弊害が起きる

外付け抵抗器を通して一次コイルの抵抗を測ると2.8オーム

外付け抵抗器の抵抗部分は、電流が多いので巻き線抵抗となっており、発熱(火傷するほど)するため、絶縁部分は碍子を使用する。抵抗の数値は1.2Ωとなっているが、実際とは少し違うようだ。この程度は問題ない





2011年8月13日土曜日

イグニッションコイルに外部抵抗器は何故必要か その1

結論を先に言ってしまうと、高回転まで安定したスパークを得るため、ということになる。

ポイント式普通点火装置では、4気筒以上のマルチシリンダーエンジンが、高回転高出力化できない理由があった。

ポイント式普通点火の時代であるから、この話しはかなり前のことになるのだが、当時はその理由を理解する人が少なかった。多気筒化すれば全てのフリクションが増えるからではない。同じ排気量なら多気筒化することによって燃焼室が小さくなる(シリンダーボアも)ため、エンジンの最高回転を高く設計できるので、それをギヤで減速すれば駆動トルクは上がる。つまり加速はよくなるのだが。

ただし、その条件が整っていなければ高回転を望んでもそれは無理。バルブタイミングや燃焼室形状、バルブの径などだけが関係している訳ではない。

忘れてはいけないのが点火装置である。そして、当時のポイント式点火装置で、ディストリビューターを使用したものでは、エンジン回転が高くなると点火エネルギーの不足が生じてしまう。その結果、不完全燃焼となりHCを多量に放出するだけではなく、エキゾーストマニホールド内で燃焼するため、オーバーヒート現象まで引き起こす。もちろん急速燃焼とならないため、エンジン回転は上がらない。

その理由は、回転上昇によってポイントの閉じている時間が少なくなるからだ。つまりイグニッションコイルに対して、十分な電気エネルギーを送り込むためには、それ相当の時間が必要。多気筒とディストリビューターが合体すると、ポイントカムは気筒数のカム山が必要となり、ポイントカムが高回転となればポイントが閉じて、イグニッションコイルへ通電している時間は回転の上昇と共に少なくなる。結果、点火エネルギーの減衰が起き、吸気量に見合った燃焼とならないのだ。
ディストリビューターを使うポイントでポイントがひとつのものは、気筒数分だけポイント開閉用のカム山がある。カム山の数だけポイントは閉じている時間が少なくなる。エンジン回転を上げると、そのことが問題を引き起こす


点火装置に関わるシステムの話になるのだが、これを知るにはコイルの自己誘導作用について理解しておく必要がある。

コイルに直流の電流を流すと磁界が発生する。ただし、コイルには磁界の発生を妨げる方向に起電力が起きる。

このためコイルに電流を流したとしても、電流は直ぐに最大とはならず、一定の時間後に最大電流となる。この時間はイグニッションコイルの巻き数によって違うが、100分の1秒~1000分の1秒単位である。

また、コイルに電流を流しておきながら、これを急激に遮断すると、コイルには電流を流し続けようとする起電力が一瞬発生する。
直流はコイルに電流を流すと、その瞬間だけ電流が流れる。また、電流を切った瞬間にも電流が流れる。この特性を利用したのがイグニッションコイルである


このようにコイルに対して電流を流し始めるとき、電流を絶つときに、コイルの磁束の変化を妨げようとする現象がコイル自身の中に生ずる。これを自己誘導作用と呼び、そのときに発生する起電力を逆起電力と呼ぶ。

ところで点火装置に使用するイグニッションコイルは、ふたつのコイルを並べた状態で(鉄芯に巻かれている)、入力側のコイルを一次コイルと呼び、そこに流れる電流を変化させると、出力側となる二次側のコイルには、一次コイルの磁界の変化を妨げる方向に起電力が発生する。これをコイルの相互誘導作用と呼んでいる。

つまり、一次コイルに一定の電流が流れているときは、磁界が変化しないので、二次コイルには起電力が発生しない。
これがイグニッションコイルとしての原理。コイルに電流を流すことで、起電力を溜める。一定の電流が流れているので磁界が変化しないため、二次側コイルに起電力は発生しない


しかし、この状態から電流を遮断すると、今まで発生していた磁界が急になくなるので、二次コイルには磁界の消滅を妨げる方向に起電力が発生する。
電流を切ると、その瞬間逆起電力が発生し、電流が流れる


直流電流ではこのように動作するが、交流電流では、周波数(正弦波)の関係で、交互にプラス・マイナスに電流が変化することから、二次コイルには、一次コイルとの巻き数比に合わせた電圧が常に発生する。つまり相互誘導作用が連続的に起きている。一般的なトランスがそれである。
これがトランス。直流では使えないが、交流(発電所が作る電気がそれ)はトランスを使って電圧の上げ下げが簡単に出来る。ただし効率は悪い。最近では、一般家庭でも最終的に直流化して効率を高くする、インバーター制御が当たり前。テレビやPCも直流を使う。そのため、発電所からの電気も直流のほうが効率が高く、変更しようではないかという運動が起き始めている

                                                               以下次回に続く

2011年5月17日火曜日

フィアット500ツインエアってどんなクルマだ

フィアット500に2気筒モデルが戻ってきた。でも、搭載されているエンジンはアッとビックリするツインエアの900cc。ツインエアエンジンは、吸気バルブの開閉に油圧を使うところに特徴がある。

カムシャフトから駆動されるそれぞれのプランジャー式油圧ポンプは、アキュムレーターを持ち、途中に有るソレノイドバルブを制御して吸気バルブの開閉タイミングを自由に取ることができるもので(バルブスプリングは使っている)、バルブとピストンがぶつからない範囲で急激なバルブ開閉も可能であるため、エンジン性能ばかりでなく、排ガス性能にも大きく貢献する優れものだ。

もちろん自由にバルブのリフト量も変更できることから、スロットルバルブを持たない構造として、エンジンレスポンスと燃費の向上に寄与している。

考えてみれば、スロットルバルブを持たないということは、吸気バルブの裏側には常に過給圧か大気圧が掛かっているわけで、アクセルペダルを踏み込んだ瞬間に、次の燃焼に必要とされる空気が入り込む形となるため、燃料の噴射量に合わせた空気量を瞬時に取り込めることから、HCの発生も少なく燃焼に関して一瞬の遅れも生じないと言うことになる。

このエンジンは、自然吸気ではなく小型のターボチャージャーを装備する。もちろん小排気量エンジンで不足するトルクを補うためであるが、ツインエア機構との協調制御は素晴らしく、過給圧が高まる、ということは微塵も出さずにごく当たり前に鋭い加速性能を発揮する性格だ。

そして、500ツインエアのミッションは5速ギヤAT(セレスピード)である。シングルクラッチを電子制御しながら、シフトチェンジするのだが、新しいモデルとなるたびにシフトアップ時の加速G変化が少なくなり、アクセルペダルを軽く踏んで、そのまま保持するように穏やかな運転では、ギヤのつながりに違和感など変化は見られず、エンジン回転と振動の変化を感じるだけでアップシフトしていく。

アイドリング近辺では少しメカ的な金属音が混じっていたが(クランク後端で1/2逆回転するバランサーのギヤ音かもしれない)、それもほんの少しアクセルを踏んだときから、一切のメカノイズは消え綺麗なエンジンサウンドのみが残る。

特に全開加速を行うと、まるでBMWの水平対向エンジンバイクに乗っているかのような、ズズズズ~ンという穏やかで力強いサウンドと、これまた応えられない振動(いや鼓動といったほうが良いだろう)を味わうことが出来る。BMWのボクサーエンジン(水平対向)を知っているドライバーには、たまらない感触だ。

このフィアット500ツインエアには、アイドリングストップ機構が採用されている。2気筒(等間隔燃焼の360度クランク)ということもあり、停止寸前のときの振動は大きく、再始動時も同様な振動が有るのは致し方ないところだろう。

また、再始動から発進可能な回転までに、僅かだが他の4気筒モデルと比べ、時間がかかるのも止むを得ないことかもしれない。特に左足ブレーキを使用するドライバーでは、ブレーキペダルを離した瞬間からアクセルを踏むので、発進までのギャップに違和感を覚えてしまうことになる。

パワー走行ばかりでなく、最先端の燃費走行用ECOボタンがインパネ上に慎ましく付いているが、これを使うとかなりおとなしい走りと、穏やかなハンドリングになる。例えば、アクセルを少し踏んで、ゆっくりと発進させた場合、1速から2速へのアップシフトは通常より700回転ほど低い。2000回転でアップシフトし、2速になると1200回転ほどだから、2気筒エンジンでは駆動系のノッキング限界。2速へ入った瞬間はドドドドドという排気音と軽い振動を伴っているが、別に悪いことではない。

2気筒モデルだからといって、走行中の騒音を蔑ろにしていないのは、うれしい限りである。エンジン音やエキゾーストサウンドを、ロードノイズで邪魔されないのは、走らせる喜びがいっそう高まる。

ロードノイズが室内へ侵入しないよう、リヤのタイヤハウス内にはインナーフェンダーを装備している。チッピング処理よりインナーフェンダー取り付けのほうがコストは安いとも思えない。最近はコンパクトカークラスとなる日本車でも(スズキのスイフトでは)、リヤのタイヤハウス内へインナーフェンダーを取り付けている。そのため非常に静かである。同様なことが行われているのだろう。


1.外観はこれまでのフィアット500と大きく変わるところはないが、どことなく精悍さが加えられた。

2.お洒落なスタイルは日本車にはない優しさがある反面、一旦アクセルを大きく踏み込むと、その走りはイタリア車そのものに変貌する。

3.エンジンルームには、ターボ付きの2気筒が収まる。900cc2気筒だからと侮れない性能は、魅力がぎっしりと詰まっていた。

4.搭載されるエンジンがこれ。2気筒360度クランクだから等間隔燃焼。アイドリング近辺ではバランサーギヤからと思われるメカ音が出ているが、少しアクセルを踏めばその音は消える。
          
5.ツインエアエンジンの特徴である吸気バルブの駆動方式は、エキゾーストカム側に設けられた、それぞれ専用のカムによるプランジャーポンプが油圧を造り、アキュムレーターに蓄圧させながら、電磁バルブの開閉で吸気バルブを押し開く。バルブスプリングの使用で、自由な開閉タイミングを選べるばかりではなく、開閉量の制御も可能なことから、スロットルバルブレスのシステムも採用している。

6.ダッシューボードの左には、申し訳なさそうにECOボタンがある。これを押すとギヤシフトのタイミングが早くなって、穏やかな走りとなるばかりではなく、ステアリングの操作感も、アシスト量を増やし優しい方向へ変化する。

7.セレスピードのシフトレバーには、オートモードとマニュアルモードがある。マニュアルモードを使用すると、気持ちの良いシフトでそれまでとは打って変わったスポーティな走りが味わえる。

8.走行中の穏やかで力強い振動やノイズの少なさは、一部のエンジンマウントに鋳鉄を使うなど、これまでとは違ったもの造りが大きく関係していそうだ。

一週間ほどボランティア活動に参加した

「とにかくひどい、それ以外の言葉は出ない」。津波でやられた南三陸・志津川の市街地に入ったとき、思わずハンドルを握る手から力が抜けた。

ボランティア活動にもいろいろあるが、私が参加したのは、あの冒険ライダー風間深志さんが村長を務める地球元気村のベースキャンプ。行政からの支援はなく自給自足のキャンプ生活となる。

ユニークなのはバイクを使って、細かな御用聞きを行い、行政では出来ないボランティア活動をすること。

最初のうちは、「訳の分からないバイク乗りが来て走り回っている」、と警察に通報されたこともあったとか。それも今では笑い話になって、彼らの行動が行政を動かし始めた。

そのベースキャンプではボランティア活動の面倒を見る【マサとトキ】はすでに1ヶ月を超えるキャンプ生活。彼らの体力ばかりではなく、気力の強さにも頭が下がる。

ベースキャンプは、神割崎キャンプ場だが、あくまでも一部を使わせていただくだけで、電気は発電機を使い、水は飲料に適する近くの沢から持ってくる。トイレは森の中を数百メートル歩いたところのポットン式。当然電灯はないので夜中は行く気がしない。食事は自分達で作るのだが、ボランティア活動をさせてくれたお宅から時々差し入れがあるのは、地域密着型の活動をしているからだろう。避難所の生活より環境は厳しいが、何とか我慢できる。建物の中を使わせてくれれば良いのだが・・・

小さな集落の被災者は行政から見放された場所が多くある。そこへ出向いて瓦礫の後片付けを行った。後列左から2番目の青いベストを着用した方がボランティア活動を依頼された佐々木さん。なんとこの中には北九州からボランティア活動に参加した7名(女性6名)がいる。

ボランティア活動は作業に限ったことばかりではない。この日は、近くの避難所にいるお子さんたちを対象に、ご飯を食べるときに使う「箸を作る」工作教室を開催。材料はヒノキ。初めて使うカンナに戸惑いながら、マイ箸を作る子供たちのハシャギ声は、周りの大人達の疲れを吹き飛ばすに十分なエネルギーを放っていた。

海水に浸かってしまったバイクを見てくれないかという依頼があり、各部の点検を行うと、やはり時間の経過と共に海水はシリンダーの中に入り込み、更に配線のコネクターは腐食が発生していた。こうなるとエンジンのOHだけではなく、ワイヤーハーネスの交換やコンピューターの交換など、多額の費用が必要となる。バイクばかりではなく自動車も同様で、特に数多くのコンピューターを採用している現在のクルマでは、どうにも再生できない状態となるだろう。水没、即バッテリーのターミナルを外す、ということが出来たなら、或いは状況がもう少し良かったかもしれない。

2011年4月1日金曜日

通信機器用の完全密閉式バッテリーはバイク用に使えるんじゃないか

バイク用のバッテリーは、専用に近いということもあって価格が非常に高価である。自動車用に比べたら遙かに小さいくせに、数倍の価格は当然で購入に躊躇することが多い。

しかし、あるとき、バックアップ用の完全密閉式バッテリーの性能が、素晴らしく高いことに気が付いた。気が付いたというより、そのバッテリーを使った自動車用の非常電源ブースターのあることが分かり、その非常電源を使うと1500ccぐらいのエンジンなら、搭載バッテリーが殆ど空でも、セルを回して始動することが可能というのだ。

そこで内部のバッテリーを検証すると、なんと容量は6V5Ah×2(12V5Ah)というもの。これで自動車のセルが回せるのは、バッテリーの内部抵抗が非常に小さく、瞬間的に大きな電流を流せるためだ。調べていくと、なんと自己放電も非常に少なく、周辺温度が低ければ(何度だか覚えていないが15℃ぐらいだったと思う)、1年間放置しても大きく低下していない、という優れもの。

なお、当時は、まだEVなどというものに注目が集まっていなかった時代で、現在「日本EVクラブ」を主宰する館内氏も、このバッテリーに関しては情報を持っていなかった。そこで後日その内容を連絡したぐらいだ。そのバッテリーとは、ブリヂストンが輸入するサイクロンというもので、基本的にはクルマ用ではなく、あくまでも通信機器などのバックアップ用なのだが、その性能は別のところで利用できたのである。

ブリヂストンの場合、このサイクロンを一般市販していなかった(現在は他の会社が輸入して市販)たため、企画として提供していただいたのだが、バイク用として使うには、接続端子を含め使い勝手が悪かった。つまり、大きさや容量が選べないのだ。

そこで次に目をつけたのが、台湾製のLONGという完全密閉バッテリーで、形や容量が多くあり、その中から選べば何とかなるだろうという判断をした。もちろんどのようなバッテリーなのか、素性は知らないが、価格的に求めやすかった。購入先は秋葉原の「秋月電子」。型式はWP8-12(12V8Ah)で2450円(2011年3月現在)。

ただし、このバッテリーもバックアップ用や通信工業用としているので、端子は平型の差込式。これではセルを回すための電流を流すには問題が出るので(新品のうちは良いが)、ここの改造が必要となる。

なお、秋月電子のHPでは「LONGのバッテリーは、通信工業用のためカルシウムが添加されており、内部抵抗が高いので、バイクのセルを回すようなことは不向きです」というようなことが書いてあるし、「完全密閉式とは言っても、ドライバッテリーではないので、横に寝かしての使用は出来ません」と、バッテリーのパッケージにはあるが、これはやってみなければわからないこと。

ところが、秋月電子のHPでバッテリー説明ページの下にある「この資料は参考です」というPDFをクリックしてみると、LONG社の諸元と説明が表示され、その内容は、大きく違っている。

そこには、大電流の流せることが表記されており、30秒間なら160Ah、5秒間なら320Ahとある。これは解釈の違いなのか。また、20℃であるなら6ヶ月間の放置後でも80%の容量を持つとある。ただし、充電で気をつけるのは、他のバッテリーと同じで、充電中に端子間の電圧が15Vを超えないように注意すること(充電電圧ではない)。

LONG社の説明を信じるかどうかは、人それぞれであるが、このような高性能バッテリーを見逃す手はないので、即入手して、端子もボルト&ナットで接続できる丸型になるよう部品専門店(ホームセンターにも同様なものは販売している)で購入し、それを大きな容量の半田ゴテで瞬時に付ける。時間がかかると端子から熱がパッケージの樹脂に伝わり、電解液(希硫酸。といってもかなり濃度が高い)が漏れ出すからだ。

バイクへの搭載方法は自由だが、それは、LONGのバッテリーをバイクへ使用することとあわせて、自己責任でお願いしたい。特に、私の場合には、横に倒して搭載することになり、そのことによるリスク(電解液の漏れ出し)は覚悟する必要があるのだ。

このバッテリーの性能は素晴らしく、最初のバッテリーは9年間使用しているが、まだ性能低下は見られない。6ヶ月間エンジンを始動させなくても、必要なときには極当たり前にセルが回る。さすがに使用期間が長いので、心配になって次のバッテリーを購入したが、いつ交換するか決めかねている。


1.購入したLONGのバッテリー。どちらもバイク用として使う。そのためには接続端子の形を変更しないといけない。ポスト型とする必要はないので、ボルト&ナットでの接続が出来る端子に変更する。

2.ボルト&ナットで既存のハーネスへの接続をするには、このような丸型の端子を付ければ良い。電子部品販売店だけではなくホームセンターなどでも売っている。

3.その丸端子をどのようにして平型端子へ付けるかというと、半田付けに耐えるよう、管状の部分(本来はここにコードを入れて圧着ペンチでつぶす)を楕円に変形させるのだ。楕円にしてもバッテリー側の平型端子へ入らない(幅の問題で)なら、楕円の一部を切り開いてもかまわない。

4.半田の熱がバッテリーへできるだけ伝わらないように、バイスグリップなどを端子へ挟む。半田ゴテにはタップリと半田を付着させ、更に半田ゴテを押し当てると同時に、半田を溶かし込んで、一瞬で終わりとする。濡れ雑巾で冷やせば更に安心。

5.丸型端子が取り付けられたLONGバッテリー。後は、プラス・マイナスを間違えないように取り付けるだけ。

6.このように横に倒して使用しているが、現在のところ問題はない。もちろん販売店の意向は無視しているので、自己責任である。バイクは250ccシングルだ。