研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2014年10月11日土曜日

不定期連載 数式を使わない、クルマの走行安定性の話・3/17


子供のローラースケートで間違えたセッティングをした

あまりにもお粗末な結論のために、日本車の操縦安定性に対する研究は、大幅に遅れることになったといえよう。ここで、もし基本的に、クルマの設計が悪いという結論になっていたとしたら、もっと早い時期に、まともなクルマになっていただろう。これがチャンスだったのである。

さらにおもしろい話を聞いた。いつ頃であったか忘れたが、日本のタイヤメーカーがメルセデスのバス用タイヤを造ることになったとき、これまでの日本のクルマメーカーから言われたことを重点にタイヤ造りをするつもりで、操縦安定性もその中に盛り込んだところ、メルセデスは「操縦安定性についてはこちらが性能を出すことで、タイヤメーカーが口を出すことではない」と、しかられたそうだ。そのタイヤメーカーに対して要求したことは、耐摩耗性と排水性(耐ハイドロプレーニング)であったそうだ。

ごく身近なところにもタイヤとボディをしっかりガタの無いように取り付けると走行性がおかしくなるものがある。例えば、子供達が使うローラースケートにおける、タイヤとスピンドルとのガタである。今はやりのインラインタイプではない、昔からあるタイヤが4個あるものでの話だ。

タイヤは、ゴムではなくプラスチックか木製。スピンドルとの間には玉押しボールベアリングが使われる。そして、取り付けナットはガタの調整が出来るようになっている。この堅いタイヤは、当然外乱をダイレクトに受けとめてしまう。

ある時、子供のローラースケートをいじっていた父親は、タイヤがガタガタで、ベアリングも油が切れていることを発見した。クルマのメンテナンスに自信のある父親は、そのローラースケートのベアリングアジャストナットを回し、ガタを完璧に取り、ベアリングにも適量のオイルを与え、音もなくスムーズにタイヤが回転するようにしてから、そのローラースケートを持って、子供と公園まで出かけた。

父親は、子供から「とても軽く走れて、スピードもでるし走りやすい」という言葉を期待していたのであるが、1周してきた彼からでた言葉は「とても走りづらくて、足首が疲れる」というものだった。

この状態から考えるに、つまりローラースケートのタイヤは、全ての外乱を処理できず、足に伝えてしまったのである。路面に散らばっている小さな石や凸凹は、ダイレクトにタイヤから伝わり、かつ子供の足の動きや荷重のかけ方が、そのままタイヤの向きを変えることになり、ローラースケートはあらぬ方向へ走り出すので、それを無理にコントロールしなければならず、ローラースケートは気持ちよくスイスイ走らないのだろう。

何が原因かは明らかである。父親が考え違いをしたのである。玉押しのボールベアリングに対して、いくらオイルを注したからと言って、ガタの無いようにしてしまったことが、乗りにくさにつながってしまったのだ。適度なベアリングに対するガタが、ローラースケートを快適に走らせる必要条件であったわけだが、ここで与えたガタはかなりの量で、結果としてみるとタイヤの幅に関係するものであった。

もちろん再調整後に、子供の笑顔が戻ってきたのは言うまでもない。これまで以上に快適になったかどうかは定かでないが、文句を言わなくなったことだけは確かである。

スーパーマーケットでもある現象を見た。それは篭を載せるお買い物カートにおいてである。ここに使われるタイヤは、自由に向きを変える自在キャスター付きのものが4個。このキャスターにトラブルが発生して、自由に向きが変わらなくなるとある問題が発生する。

スーパーマーケットの中のフロアはスリッピーであるし、非常に平らであるから、トラブルを抱えたキャスターでも、押して歩くことに対してそれほど問題が発生しない。多少力は必要になるが、無理をすれば自分の思っている方向へ移動することは可能である。

ところが駐車場に来ると事態は一変する。それまで何とかコントロールできたお買い物カートはとんでもない方角へ向かっていく。スーパーマーケットの中では片手でも、何の問題もなく押せていたものが、グリップのいいコンクリート路面となると、両手を使いしっかり向きを決めておかなければ、止めてある車に接触してしまう。とにかく勝手な方向へ進んでしまうのだ。

ここに使われているキャスター付きのタイヤは、その性質上キャスター角ゼロとして転がり、外乱をうまく処理している。正常に作用しているお買い物カー(カート)のタイヤを見れば、非常な勢いで首を振っていることが分かる。この首振りこそ外乱を処理している結果であるといえる。首を振らなくなったキャスター付きのカートは、外乱の処理が出来ないために、路面次第で勝手に向きを変えることになるのだ。

しかし、タイヤ経が少し大きくなったタイプで見ると、ほとんど首を振っていない。タイヤ幅は同じで外周にゴムを張ってある。当然キャスターゼロ(つまり直角)でもトレールは大きくなる。この部分が影響するのであろう。しかし、首の振り方が悪くなると、かなり悲惨な走り方となる。それは、いくら路面がフラットであっても、お買い物カートのコントロール性が非常に悪く、押して歩くことさえ大変となるのである。