研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2013年10月22日火曜日

凸凹道は両手放しで真っ直ぐ走るが、鏡のような道では決まらない変なクルマ

かなり前のことだが、北海道で行われたそのクルマの試乗会。当然コースはバラエティに富んでいて、舗装の崩れた道路から、鏡のように平らな道路まである。

当時の我々の試乗項目には、ハンドルから両手を離した状態で、何処まで真っ直ぐ走るか、と言うようなことを組み入れていた。

その試乗車は、ステアリングとサスペンション周りも一新して、これまでにない直進安定性を確保した、と言うことがキャッチフレーズに盛り込まれていたが、走行ラインが何となくピタリと決まらないので、何処まで本当なのだろうか、と言う気持ちから両手放し走行を、鏡のように平らで凸凹のない道路でやってみた。

するとどうだろう、いつの間にか右へ行ったり、左へ来たり。シャキッと走らない。

この状態だと、舗装が壊れた凸凹道では、何処へ行くか危険だから、両手放し走行などやれるわけがない。デモ、恐る恐る両手をハンドルから放してみると、あら不思議、サスペンションは大きく作動しているものの、走行ラインに乱れは出ず、数百メートル両手放しで、普通に走りきってしまったのだ。

これ、普通は逆のはずだが、何か変である。第一、舗装のしっかりとしている道がほとんどの日本では、クルマの資質としては逆なので、疲労の多い状態となることが懸念された。

その原因について、当初の開発者はこちらの質問を素直に聞くつもりはないようで、結論が出なかったが、その後の情報で、その開発者は技術力がない人物だった、と言わざるを得ないことが判明。

その情報とは、フロントサスペンションが作動することで起きる、タイヤのトー変化を出来るだけ抑えて、直進安定性を高めるため、これまでと違うステアリングのラック&ピニオンからタイロッドに至る構造を取っていたことが原因で、タイロッドの重さとボールジョイントの摩擦が関係している、というものだ。

その構造を図示してみた。上が普通のラック&ピニオンからタイロッドに至る構造で、下が問題となったクルマに採用されていた構造。
上が普通のラック&ピニオンとタイロッドの関係位置。下がタイロッドを長くすることでサスペンション作動時のタイヤトー変化を小さく抑えるタイロッドの長さと位置関係。タイロッドが重く、垂れ下がり状態となり、フリクションが大きくなって、初期の動きが悪くなった結果、鏡のような平らな道路での直進性に問題が出た

何処が違うか一目瞭然。タイロッドの長さが違う。長ければサスペンションの上下動で変化するボールジョイント部分での円弧が大きくなり、強いてはその末端に取り付けられているナックルアームに影響を及ぼすことも少なく、タイヤはトーの変化が小さくなる。と言う構造で、素晴らしいものなのだが、作りこみと煮詰め不足により、問題点を我々が見つけてしまったのである。

このような問題のあることを、メーカーの開発人は認識していなかったと断言できる。それは、見かけ上の対策として、ごまかしが出来る内容だからだ。

しかし、そのような問題が、何故起きるのか、何処がまずいのか、更に一番の問題は、このようなことが起きていることを知っていたか、それが分かっていなければ、試乗車に対策することは出来ない。言い方が悪いが、分かっていなかったと断言できるのである。

何故、タイロッドを長くしたら鏡のような平らな道で直進安定性が出なかったのか。

それは、長いタイロッド=重量がある。と言うことで、常に垂れ下がり状態であり、更に、その垂れ下がったところは摩擦も大きい。動くもの同士が一度動きを止めて一体となると、再び動き出そうとするときの力は大きなものが要求される。これはボールジョイントのような、摩擦を使って回転や作動位置を決めているものも同様で、それが使い方と、一部の構造により悪さが出ることもある。

クルマが安定して真っ直ぐ走るには、タイヤからの外乱を受け流す構造が重要(レーシングカーとは考え方が違う)で、そこにあるタイロッドの長さと構造がどのようなことになるか、理解されていなかったことと思われる。つまり、動きの渋いタイロッドが全ての原因である。そのため、以後この構造を持つクルマは作られていない。

このタイロッド構造を持つクルマは1987年にVWサンタナとして、ニッサンがノックダウンし、日本でも発売されていたが、しっかりと作りこみがなされていたのだろう、これまで書いたような問題点はなかったように記憶する。