研究開発に見た遠回りの結論にあきれる -水素エンジンと点火装置-


2012年5月19日土曜日

熱海のトラック事故・原因を考える

熱海のトラック事故はブレーキが効かなくなったことからの暴走と言うのだが、その原因追求が少し不足していると感じたので、私なりの見解を述べてみたい。

まず最初にやることは、ドライバーからの聞き取りだが、ブレーキペダルを踏む感触がどのように変化したのか、或いは変化しなかったのか。それによって原因は違うからだ。

ブレーキペダルを踏む感触が普段と変わらないのに、ブレーキが効かなくなったとすると、これはブレーキの使いすぎによるフェードと言う現象で、ブレーキパッドやブレーキライニングの表面が高温となって燃え出し、炭化することで(カーボンだから摩擦が小さい)ブレーキが効かなくなる。

中型トラックではフロントにディスクブレーキを装着していると思うが、ブレーキの冷却性に優れていても、ブレーキパッドのフェードは別の話。

もし、ブレーキペダルを踏む感触がフワフワで、しっかりとした状態でないとしたら、これもブレーキの使いすぎによる、ベーパーロックと呼ばれる現象。ブレーキは使うことで、そのエネルギーは熱となるわけで、使いすぎれば放熱が間に合わなくなり、ブレーキ液が沸騰する。

沸騰した泡がブレーキペダルからの力をダイレクトに伝えることが出来なくなり、俗に言うスポンジー状態で、ブレーキは効かない。

ブレーキ液の沸点が下がる原因は、長期に渡る使用により水分を吸着することによって起きる。そして、ブレーキ液が沸騰した形跡は、冷えることで泡が消えるため、そのままでは検証できない。使用していたブレーキ液の沸点テストをすれば判断材料となるが、断定は難しい。

ディスクブレーキをフロントに装着していれば、それなりに熱に対して強くなるが、それも確実に整備されていての話だ。

ブレーキペダルを深く踏めば何とか制動するが、普段のようなブレーキではないとすると、これはブレーキ系統のブレーキ液を送るパイプやホースに亀裂や緩みが生じて、ブレーキ液が漏れているためだ。

クルマのブレーキは、基本的に2系統であることが義務付けられており、FF車ではX配管で、例えば左前輪のブレーキパイプが破損してしまった場合、右前輪と左後輪にブレーキが作用する。トラックやFR車では前後で2系統となっている。

もちろんこの状態となると、何とか止まれる性能を残すだけで、連続した下り坂を、気にせずにブレーキペダルを踏めば、当然ブレーキは効かなくなる。

ただし、ここでの問題は、どのようにしてブレーキ液が漏れたのかと言うこと。接触事故でも起こさなければ(ブレーキ周りを岩などにぶつけるような)、配管が破損することはない。

だとすると、車検や直前の整備はどうだったのか。メカニックのヒューマンエラーはなかったのか。更にブレーキ液の交換は正しく行われていたかどうかも検証する必要がある。

ブレーキ液を交換しないで使い続けると、耐温度性能が低下し、沸点が下がりベーパーロックに繋がるからだ。かなり前の話だが、バスのブレーキが効かなくなった原因は、ブレーキ液の定期的な交換を怠ったためである、という。

また、このトラックはディーゼル車だろうから、そうなるとブレーキの助勢装置として作動させるブレーキブースターは、ガソリン車(全てではない)のように吸気管に発生する負圧を利用することが出来ないので、別にバキュームポンプを装備していたはず。

このバキュームポンプは正常だったのだろうか。

もし、ブレーキペダルを踏む感触が、まるで石を踏みつけているように硬く、ほとんど踏み込めていないとすると、バキュームポンプの不良が考えられる。

このバキュームポンプがどこに装備されていたか知らないが、小型トラックなどではオルタネーター(発電機)の後部、或いは前部。つまりオルタネーターにビルトインされている。

そのオルタネーターは、ベルトで回されるので、そのベルトが切れれば、負圧が作れず、ブレーキペダルを力いっぱい踏んでもブレーキは効かなくなる。

ガソリン車でも試しに、エンジンを停止させた状態で、ブレーキペダルを数回踏んでみると分かる。踏むたびに踏み込める量が減少し、ついにはペダルがほとんど動かなくなる。つまり、この状態ではブレーキは効いていないのだ。